川崎市多摩区、麻生区、東京都稲城市の訪問診療中心のクリニック(在宅療養支援診療所)
在宅医療 往診 認知症 緩和ケア
みやもと訪問クリニック
044-328-9706 (FAX)
著書について
2021年7月、幻冬舎より、院長の著書「在宅医療と笑い」が出版されました。
著書の紹介1
本書は、「これから在宅医療を受けたいと考えている患者さんやご家族」をはじめ、すでに在宅医療を受けている患者さんやご家族なども対象に、医学的な専門知識がなくても在宅医療について良く理解できるよう、できるだけわかりやすく解説することを目的として執筆したものです。それに加え、これから本格的に在宅医療に関わっていきたいと考えている、在宅医、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネージャー、訪問介護士等、様々な職種の方にも参考になる内容が含まれているものと自負しております。
第一章では、在宅医療の実際について、詳しく解説しました。特に、私たちが日頃から実践している、訪問診療・訪問看護・訪問薬局などの連携による、真の24時間365日体制の在宅医療チームについて紹介しています。そして、入院生活と比べた在宅療養のメリット、認知症の方の在宅医療のポイント、病院と変わらないレベルの治療が可能となった「がんの緩和ケア」などについても詳しく解説しています。
もちろん、どんなに素晴らしい在宅医療チームを導入しても、在宅療養生活がうまくいくとは限りません。うまく行かないときこそ「笑い」が大事(本書における笑いとは、心の底から笑うこと、そして笑えるように努力する=何でも前向きに考えて楽しむことを指します)です。第2章では、笑いの医学的な効果、そして在宅療養生活における笑いの重要性について、私が診療してきた患者さんの具体的なエピソードを交えてわかりやすく説明しています。
そして第3章では、在宅医療チームに加え、地域の社会資源、介護保険サービスなどを活用し、充実した在宅療養生活を送るための方法について、具体的に解説しています。
第4章では、在宅療養生活で笑いを習慣にするための方法について、笑いヨガという素晴らしいツールを中心に紹介しています。私は日本笑いヨガ協会で「笑いヨガリーダー」という資格を取得し、実際に活動してきました。本書では、特に、患者さんを支えるご家族や、私たちのような在宅療養生活を支える専門職が笑いを忘れては、患者さんを笑顔にすることはできない、という想いから、笑いヨガを紹介させていただきました。未熟な笑いヨガリーダーである私の稚拙な原稿を、校了直前で時間がない中、懇切丁寧に修正してくださった、日本笑いヨガ協会の高田佳子代表に、心から感謝の意を申し上げます。
第5章では、どんなに重い病状であっても、笑いの溢れる在宅療養生活を過ごした、素晴らしい患者さんたちのエピソードをたくさん紹介しています。100人の患者さんがいれば、100通りの人生ががあり、100通りの人生観、考え方があります。私は訪問診療を始めてからずっと、たくさんの患者さんの素晴らしい人生に触れ、日々「笑い」の重要性を実感してきました。その一部を、読者の皆さまにも共有していただければと考えています。
本書が、在宅医療に関わる一人でも多くの方のお手元に届くことを、心から願っております。
著書の紹介2(ある患者様とのエピソード)
本書では、たくさんの患者さんのエピソードを紹介させていただきました。たとえどんなつらい状況でも「笑い」を忘れず前向きに在宅療養生活を送っている患者さんたちのエピソードにより、読者の皆さまに「笑い」「楽しむこと」「前向きに生きること」の大切さを実感していただければと思っています。
本書に掲載されているエピソードの一部を紹介いたします。(商品名は本の中では紹介できなかったので、ここではじめて紹介いたします。)
Aさんは私と同世代の女性で、癌が腹部全体に拡がり、胃腸がほとんど動かず、飲食物が腸の途中で詰まってしまう状態となり、食事で栄養を摂取することが難しいため、食事の代わりに高カロリーの点滴を続けていました。食事をしなくても胃腸には消化液が分泌され、それが溜まってくると嘔吐するようになります。そのため、首から食道・胃を通って小腸にまでつながる管を留置し、消化液などの腸内の老廃物を体の外に出す処置を続けていました。
そのような状態なので、ちょっと多めに食べたり飲んだりすると、管からは十分に排出できず、嘔吐してしまいます。
Aさんは、昔からミルミルという乳酸菌飲料が大好きで、それを飲むと、子供の頃の楽しい思い出がよみがえり、つらいこともしばらく忘れられるとのことでした。そして、しばしば飲み過ぎて、吐いていました。私は、吐くのはつらいので、飲むのはごく少量にするよう勧めましたが、Aさんは笑顔で「ミルミルを飲んで吐くのは全然辛くないんです。」と言いました。飲むときだけでなく、吐く時にもミルミルの味を感じられる、二度幸せな気分になれる、だから全然つらくない、と屈託のない笑顔で話す彼女を見て、私も思わず笑顔になりました。どんなつらい時でも笑顔で前向きに生きようとする、彼女の真の強さを実感するとともに、笑いの大切さを学びました。
Aさんは、病状が悪化し外出が難しくなってからも、テレビやインターネットで評判の美味しい食べ物を注文して家で楽しんでいました。しかし、いよいよ自分で食べることが難しくなり、自宅には様々な食べ物が残されていました。ある日、Aさんは私に辛いラーメンを渡して「辛いものが大丈夫なら、私の代わりに食べて下さい」と言いました。一度はお断りしたのですが、「先生に食べてもらって感想を聞いて、私が食べてる気分になりたいんです。」と言われると、もちろん断ることはできませんでした。せっかくいただいたからには、真剣に食べて、本当に彼女自身が食べた気分になれるよう頑張って食レポしようと決めました。次の診察の時、Aさんとお母さんに、精一杯、いただいたラーメンのおいしさを伝えました。私のぎこちない食レポに、そのぎこちなさも含めて、二人はとても嬉しそうに笑ってくれました。それは本当に楽しい時間で、しばらくの間、Aさんは痛みなどの病気の苦痛を忘れ、お母さんは介護のつらさを忘れることができたと思います。その次の診察時には「テレビで美味しいって言ってたから。」ということで、レトルトの陳麻婆豆腐をいただきました。2回目だったので、少し上手に食レポできたようで、彼女は涙を流さんばかりに大喜びして「本当に自分が食べてる気がしてきた」と言って笑ってくれました。私は今でも時々この麻婆豆腐を食べて、彼女の笑顔を思い出しています。